「ガラス繊維と不飽和ポリエステルのGFRP硬化促進への光の影響」技術資料 ENG-REPORT-023 rev1

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背景

優れた耐薬品性と耐水性を有するGFRP(Glass Fiber Reinforced Plastics :ガラス繊維強化プラスチック)は、化学工場において酸性や塩基性の水溶液を貯蔵するタンク、槽、配管等の構造材や補修材として用いられている。特に化学工場における補修作業は生産活動の停止や抑制を強いることもあり、可能な限り短期で終了させることが要求される。これに対応するため、積層後のFRPに太陽光を当てることでマトリックス樹脂の硬化を促進させることを現場の経験則に基づいて行っている。しかしながら、光硬化を想定していない一般的な不飽和ポリエステルや、ビニルエステル等の熱硬化性樹脂の硬化挙動に対する光の影響について不明な点が多い。

目的

GFRPに多く用いられる不飽和ポリエステルと過酸化物系硬化剤を混合した樹脂の光吸収特性をUV-visによって計測する。また、同樹脂をマトリックスとしたGFRPを積層し、遮光した暗室、同暗室中でUVを照射、または太陽光を主とした自然光にそれぞれ暴露したGFRPの硬化挙動を比較し、各条件で硬化させたGFRP硬化物の違いを外観、寸法、硬度、定性的曲げ試験、並びに層間せん断試験で評価する。

結論

樹脂のUV-visスペクトルは可視光域で微弱な吸収を、300nm以下で強い吸収を示した。UV照射したGFRPは照射開始後5分で表面のタック性が消失した一方、自然光で同34分、暗室では同120分以上必要であり、UV照射による硬化促進効果を確認した。UV照射されたGFRPは硬度のばらつきが抑制されたが褐色系の着色が認められ、また他の硬化条件と比較して硬化物の層間せん断特性の低下を確認した。

概要

GFRPはガラスマットと光硬化を想定していない硬化剤と不飽和ポリエステルを混錬したものをマトリックス樹脂として用い、ハンドレイアップで積層した。UV照射は右図に示す暗室が付属した機器を使用した。UV照射、暗室、自然光暴露環境における硬化時間を右表に示した。UV照射は他条件と比較し、短時間で硬化した。UV照射環境下で硬化したGFRPは、樹脂中のスチレンから生じたアセトフェノン由来のラジカル反応でベンジルが生成して褐色となり、また硬化物の層間せん断強度は自然光暴露と比べ約15%低下した。

評価準備と評価方法

樹脂のUV-vis測定

樹脂はGFRPのマトリックスとして一般的に用いられる、不飽和ポリエステルと過酸化物系硬化剤を選定した。混練前の不飽和ポリエステルと硬化剤について、それぞれUV-vis測定(紫外可視分光法による測定)を実施した。計測条件の概要を下表に、分光光度計の計測部の外観画像を下図に示す。ベースライン補正には超純水を使用し、溶剤希釈をせずに測定するため光路長が狭い0.25mmのセルを選定した。本測定により、樹脂の透過スペクトルを取得した。

硬化挙動評価に用いた樹脂

不飽和ポリエステルと過酸化物系硬化剤の混練は手作業で実施した。混練の様子を右図に示す。

GFRPの積層

強化繊維にEガラスのチョップドストランドマット#450(以下、CSM)を用い、硬化挙動評価に用いた樹脂と同様の組成のものをCSMに手作業で含浸した後、脱泡ローラを用いながらハンドレイアップで積層した。積層の様子を下図に示す。また、GFRPの積層構成と狙い厚みを下表に示した。土台となる下型にはSUS板(120×120×3 [mm])を使用した。成型後の狙い厚みは8mmとした。

GFRP硬化反応に対する光の影響と硬化後のGFRPに対する評価

積層済みGFRPの暴露状況

GFRPの硬化反応に対する光の影響を評価するため、SUS板の上に積層したGFRPを遮光した暗室、同暗室中でUVを照射、または太陽光を主とした自然光に暴露した状態とした。

完全に遮光状態にするGFRP(以下、FRP-Dark-PLATE)は、下図に示す通りアルミ箔で覆うことで外光を完全に遮断した上で、後述する暗室内にいれた。

UV照射機(ASM2501(あすみ技研))の暗室内にFRP-Dark-PLATEを入れ、その上にUV照射を行うGFRP(以下、FRP-UV-PLATE)を静置し(下図参照)、暗室内温度はデジタル温度計(73118(シンワ測定))で計測した。

自然光に暴露させる積層済みのGFRP(以下、FRP-Natural-PLATE)は、下図で示すような状態で解放状態の加熱炉内に設置した。前述の暗室、UV照射のGFRPと温度条件を可能な範囲で合わせるため、温湿度計(174 H(testo))で温湿度の計測と記録を継続しながら、加熱炉のヒータとジェットヒータの併用による加温を行った。

硬化が終わったGFRPはすべてSUS板から手で引きはがし、手加工により各端面をトリミングした。

 

タック性評価

硬化状態を簡易的に確認するため、GFRP表面のタック性(べたつき)を確認した。ゴム手袋を着用した状態で、試験片中央付近を人差し指で押して、離すという動作を複数回繰り返した。当該作業中の指の離れ方や表面への付着感を確認し、タック性の有無を記録した。タック性が消失した時間で硬化反応は終わったと仮定し、それを硬化時間とした。

タック性評価は各静置環境設置時点を基準に積層経過時間とし、そこから5分、10分、20分、30分、60分、120分、150分までを目安にタック性消失まで実施した。タック性評価の様子を下図に示した。

外観目視

GFRPの硬化終了後、外観を確認するため写真撮影を行った。

バーコル硬度

試験片を下型であるSUS板から脱型後、バーコル硬度を硬度計(GYZJ 934-1型(Eurotherm))を用い、各試験片に対し10から11点計測した。本計測は23±0.1℃、50±1%RHで管理された恒温恒湿環境で行った。計測の様子を下図に示す。

寸法

硬化後にトリミングしたGFRPの縦横寸法と厚みを計測した。縦横寸法はノギスを、厚み計測にはマイクロメータ(PMU300-25MB(ミツトヨ))を使用し、計測はすべて23±0.1℃、50±1%RHで管理された恒温恒湿環境で行った。厚み計測の様子と厚み計測を実施した9個所の位置を下図に示す。

定性的曲げ試験

硬化の終わったGFRPを、手袋着用したうえで曲げることで、曲げ操作中および除荷後において、ひび割れ、白色化、局所的な損傷などの外観変化が生じるかを確認した。定性的曲げ試験の様子を下図に示す。

層間せん断試験

硬化物の機械特性を評価するため、層間せん断試験を行った。

試験片加工と加工後の検査

試験片の製作に用いる平板は、前出の硬化後のGFRP(FRP-UV-PLATE、FRP-Dark-PLATE、FRP-Natural-PLATE)をそれぞれ用いた。本平板を複合材料裁断機で切断後、側面を研磨加工した。試験片は硬化条件の異なる各GFRP平板から各5本採取した。

加工後の試験片について、以下の要件に基づき全数検査した。板厚は変動が大きいため公差は設けず、実測記録とした。

層間せん断強度評価

層間せん断強度(見掛けの層間せん断強度)はショートビーム法であるJIS K7057の規格に基づき、室温環境で実施した。試験中の環境温湿度はデータロガーで記録した。層間せん断強度(τ)は下式に基づいて算出し、FRP-UV-PLATE、FRP-Dark-PLATE、FRP-Natural-PLATEの各平板から切り出した試験片について平均値と標準偏差をそれぞれ求め、応力/変位線図を作成した。

硬化条件違いによる試験片厚み平均の差異は最大で0.55mmであることから、本差分に伴う支点間距離5h(厚みの5倍)の変動値は2.78mm程度となることがわかった。本支点間距離違いによる試験片への荷重分布に顕著な違いは無く、層間せん断モードによる評価が実施可能と判断し、すべての試験片について板厚を7.45 mmと想定して支点間距離を37.25 mmに固定して試験を実施した。荷重/変位線図を確認の上、変位が2.5から3.0mmに到達した時点で試験を停止し、試験片の外観写真を撮影した。試験条件の概要と様子を下表、並びに下図にそれぞれ示した。

結果

樹脂のUV-vis測定

不飽和ポリエステルと硬化剤のUV-visスペクトルを重ね書きしたものを下図に示す。図中横軸が波長、縦軸は透過率である。硬化剤は300nm付近までほとんど吸収が見られなかったが、より短波長側で強い吸収が認められた。不飽和ポリエステルは可視光域から弱い吸収が認められ、400nm付近より吸収が起こり、硬化剤同様300nmより短波長側ではその透過率はほぼ0%を示すことが明らかとなった。

 

硬化挙動評価に用いた樹脂

混練後の樹脂には異物の混入が無く、均一な液体であることを確認した。

GFRPの積層

積層後のGFRPの外観画像を下図に示す。積層中の異物混入や明確な気泡の抱き込みといった問題は認められなかった。

GFRP硬化反応に対する光の影響と硬化後のGFRPに対する評価

積層済みGFRPの暴露状況

UV照射機の暗室温度はUV照射開始前で17℃程度、UV照射中は10分程度の時間をかけて概ね30から35℃程度まで上昇したものの、発煙や急激な温度上昇は確認されなかった。                    この結果を踏まえ、自然光に暴露させたFRP-Natural-PLATEの環境温度条件を可能な範囲で合わせた。温湿度の履歴を下図に示す。開放系での手作業による加温、並びに複数回にわたるFRP-Natural-PLATEの取り出し時作業などの影響により温度変動が大きくなった。しかしながら5℃程度の外気暴露環境であった一方で炉内の最低温度は26.8℃であり、暗室と比べて顕著な低温環境になる状況ではなかったことがわかった。湿度は環境温度に応じて変動しているが、10から30%RHの範囲に収まっていた。

タック性評価

FRP-UV-PLATE、FRP-Dark-PLATE、FRP-Natural-PLATEの各試験片について、タック性評価結果概要を下表に示す。表中は各FRPのタック性評価結果を積層後経過時間ごとに示したものである。表中をセルを灰色で示した時間が、タック性が消失したと確認できた時間である。FRP-UV-PLATEは積層後約5分経過した時点で、試験片表面にべたつきは認められず、試験片全体にわたってタック性は消失していた。FRP-Dark-PLATEは積層後60分経過してもタック性が維持されており、UV照射した場合と比べ、明らかな硬化反応の進行遅延が確認された。FRP-Natural-PLATEでは同経過時間20分まではタック性が残存していたものの、34分経過後はタック性を示唆するべたつき等は無くなっていた。

以下、各試験片についてタック性評価の状況を述べる。UVを照射下FRP-UV-PLATEについては、試験片の暗室投入後にUV照射機の電源をONにした後、約3分40秒後にUV照射のランプが安定点灯した。同約5分後に試験片表面を指で押し付けたところべたつきは認められず、タック性は消失していた。試験片の外観を右図に示した。タック性が無くなった後も、一緒に暗室に静置したFRP-Dark-PLATEのタック性がなくなる同120分経過までUV照射は継続した。

アルミホイルで遮光したうえでUV照射機の暗室にいれたFRP-Dark-PLATEは、積層経過時間約10分時点では試験片は全く硬化しておらず、表面のタック性残留に加え全体が積層直後の様な軟化した状態であった。同約20分、約32分、約60分でも硬化反応の進行は認められなかった。積層経過時間120分では、表層のタック性は消失していたが端部はゲル状態だった。その後、30分間ほど遮光状態をやめ自然光に暴露したところ端部含めてタック性は無くなった。

自然光に暴露したFRP-Natural-PLATEについて、積層経過時間約7分の時点では、試験片表面にタック性が認められた。その後、同13分、20分の時点において、いずれも表面状態に違いは認められなかった。一方、積層経過時間約34分ではFRP表面のべたつきは認められず、タック性は消失した。タック性評価試験の状況を下図に示す。

外観目視

GFRPの硬化終了後の外観を下図に示す。FRP-Natural-PLATEはマトリックス樹脂の通常の色合いにちかいに近い緑系の色を示した。FRP-Dark-PLATEは色合いが異なるように見えるが光の加減によるものであり、FRP-Natural-PLATEと同様の外観であった。一方でUV照射したFRP-UV-PLATEは褐色となり、他と異なる色合いとなった。

バーコル硬度

各FRPについてバーコル硬度を縦軸にプロットした結果を下図に、それぞれの平均値を下表にそれぞれ示す。バーコル硬度20を下回るデータは外観で層間剥離が確認された箇所に由来するものであり、他の箇所と比較して明らかな硬度低下を確認した。当該硬度の平均値はFRP-Dark-PLATEとFRP-Natural-PLATEではほぼ同じ36程度であった一方、UV照射のもののみ46と3割ほど高い値を示した。

寸法

トリミング後のGFRPの厚みと縦横寸法の計測結果を、下図並びに下表にそれぞれ示す。厚さは概ね6.7から7.9mmの範囲で分布した。特定のGFRPが他と比較して顕著に厚い、薄いことはなかったがFRP-Dark-PLATEはややばらつきが大きい結果となった。トリミング後の縦横寸法は概ね83から93mmであった。

定性的曲げ試験

両端を保持して手で曲げを試みたが、FRP-UV-PLATE、FRP-Dark-PLATE 、FRP-Natural-PLATEのいずれも変形しなかった。また、曲げ荷重負荷および除荷の一連の工程において、ひび割れ、白色化、局所的な損傷などの外観変化は認められず、硬化条件の違いによる明確な曲げ挙動の差は確認されなかった。

層間せん断試験

試験片加工と加工後の検査

試験片の加工に関して問題は生じなかった。試験片の寸法検査結果を下表に示す。全試験片について公差要件を満たすことを確認した。なお、各試験片は平板名称に01から05を追記することで採番した。

層間せん断強度評価

各試験片の荷重/変位線図を取得後、荷重を応力に換算した応力/変位線図を下図に示す。FRP-UV-PLATEの試験片はFRP-Dark-PLATE、FRP-Natural-PLATEと比較し、それぞれ24%、15%程度低い最大応力値を示した。

層間せん断応力の平均値の比較をしたグラフを下図に示した。データラベルは各硬化条件での層間せん断応力の平均値を、エラーバーは標準偏差を意味している。

試験後の試験片外観について代表的な画像を下図に示す。せん断モードの破壊も認められた一方、主たる破壊モードは底面部の引張破壊が多いことが分かった。

考察

UV照射による硬化促進効果発現のメカニズム

同一の温度環境下で、UVを照射したFRP-UV-PLATEと遮光したFRP-Dark-PLATEでは、マトリックス樹脂硬化までの時間に明確な差が認められた。タック性評価による当該硬化に必要な時間は、前者で5分程度である一方、後者は120分以上を要した。このことからUV照射はGFRPの硬化促進に明確な効果があることを示すことができた。

ここで留意すべきは、評価に用いたGFRPは光硬化を想定したものではなく、一般的な不飽和ポリエステルと過酸化物を組み合わせたものであることだ。UV等の光による非加熱硬化を想定する場合、ベンゾフェノンやアミノケトン等の芳香族ケトン構造を有する開始剤、そしてチオールやピラゾリン誘導体等の増感剤を添加する。これらが配合されていないにもかかわらず、何故硬化反応速度にこれほどの差が出たのか、その要因について考察する。

最初に考慮すべきがUV照射によるラジカル源の増加である。熱硬化を想定した不飽和ポリエステルの硬化システムでは硬化剤として過酸化物が用いられている。より具体的には下図で示すメチルエチルケトンパーオキサイド(Methyl Ethyl Ketone Peroxide)が、本評価で用いた硬化剤の主成分となる過酸化物である。本構造の中ほどにある-O-O-の結合部分は結合力が一般的な共有結合の中で比較的低いことが知られている。例えばエタン(C2H6)の-C-C-結合に関する結合力に該当する共有結合解離エネルギーは88kcal/mol1)であるのに対し、ジエチルパーオキサイド(C2H5-O-O-C2H5)の-O-O-の同エネルギーは36.9kcal/mol(153.8kJ/mol)2)である。このような結合力が相対的に低い構造部にエネルギー供給源であるUVが照射されることで過酸化物の-O-O-結合が開裂してラジカルが発生し、樹脂の硬化反応であるラジカル重合反応が進行したと考えられる。

 

この事象は硬化剤のUV-visチャートも示唆している。300nm以下で見られた透過率の急激な低下は過酸化物のn→σ*遷移を含む複数のUV吸収現象であると考えられ、当該過酸化物に対するUV照射によってラジカル生成を含む反応が生じているものと推測される。

さらに硬化剤に対して主剤とも呼ばれる不飽和ポリエステルを主成分とする樹脂中には、硬化促進を主目的としたCo触媒が含まれている。硬化剤のUV-visチャートと比べ、不飽和ポリエステルの同チャートでは可視光域である400nm以上の波長域において透過率の低下が認められる。この事象はCo触媒由来のd-d遷移によると考えられる。本事象がラジカル反応促進に対して影響を与えるという確かな裏付けは現段階ではないが、光を吸収しているということは励起されていることと同等であることからも、当該促進の一因となっている可能性がある。

また、UV光源との距離も関係も考慮する必要がある。光は基本的に拡散するため、光源からの距離が近いほど高密度に光エネルギーを受け取るものと考えられる。UV照射による硬化状態を評価したFRP-UV-PLATEは光源から非常に近い位置で、かつ光源からの光の多くがGFRPに照射された状況であった。このように、効率的にUVをGFRPに照射したことも硬化反応促進効果の一因となった可能性がある。

UV照射によるGFRPの着色

UV照射状態で硬化させたFRP-UV-PLATEは、通常のGFRP硬化物と同等の外観を示した自然光暴露環境で硬化させたFRP-Natural-PLATEと比べて褐色に着色した。外観の状態比較を下図に示す。この色の一因として考えられるのがUV照射によって発生したアセトフェノンの開裂と再結合である。本仮説について化学反応式を示しながら考察する。

ポリスチレンを酸素存在下で100℃に熱した状態でUVを照射することで、アセトフェノンが発生することが紫外線/熱分解/ガスクロマトグラフ質量分析法(UV-Py-GC/MS)による分析で確かめられている3)。高温かつUV照射という環境では光酸化反応が進行したと推測され、スチレン重合体であるポリスチレンの結合が切れるなどして低分子化と酸化反応によってアセトフェノンが発生したと推測する。不飽和ポリエステルは希釈剤としてスチレンを多く含んでおり、今回評価したUV照射環境下ではラジカル重合による三次元架橋と前出の光酸化劣化が同時に進行したものと考えられる。UV照射した際の温度環境は前出の参照文献とは異なるが、アセトフェノン発生反応が起こった可能性は否定できない。

発生したアセトフェノンは、UV照射によってNorrish Reaction Type Iの反応がまず起こってメチル基が離脱し、そこにカルボニル基の炭素原子にラジカルを有する2つの化合物によるラジカル停止反応の結果、ベンジルが発生するという下図に示す化学反応が進行したと考えられる。ベンジルは共役構造を有することから黄色を有する。このベンジルがFRP-UV-PLATEの色として発現したと推測する。

UV照射によるGFRPのバーコル硬度や寸法への影響

GFRPのバーコル硬度は、タック性評価と異なる観点から硬化状況を見ることができる指標の一つである。バーコル硬度の個別データのばらつきを硬化環境の異なる3水準のGFRPについて比較した結果から、剥離した特異個所を除き、UV照射条件で硬化させたFRP-UV-PLATEが最も高く、かつばらつきが抑制された状態でバーコル硬度が分布していることが分かった。遮光した環境で硬化させたFRP-Dark-PLATEは、ばらつきは抑制されていたものの、UV照射したものと比べて当該硬度が低い結果となった。自然光に暴露して硬化させたFRP-Natural-PLATEは他と比べてバーコル硬度のばらつきが大きいことが明らかとなった。以上の結果から、UV照射はGFRP硬化物の硬度向上とそのばらつきを低減させる効果があることから、当該光によって生じたラジカルが試験片全体で発生して硬化反応(架橋反応)が急速に進行し、かつその架橋密度が高くなっている可能性が示唆された。

また各GFRPについて厚みを比較した結果、データ分布のみだとFRP-Natural-PLATEのばらつきが小さく、逆にFRP-Dark-PLATEではばらつきが小さいということ以外は顕著な違いは認められなかった。FRP-Dark-PLATEのばらつきが大きいのは、樹脂の硬化が遅かったために繰り返されたタック性評価で試験片の表層が変形したことも一因であると推測される。                               より客観的かつ定量的に厚みのばらつきを評価するため、3水準のGFRPについて平均値の同等性評価である一元配置分散分析をExcelのアドインを用いて計算した。結果、p値は有意水準の0.05を下回ることから、3つの母集団(3水準のGFRP)の厚みの平均値には有意差は無いという帰無仮説が棄却された。

この結果に影響を与えているのはFRP-Natural-PLATEの平均値が7.57mmと他と比べて0.2から0.3mmほど大きいことに加え、そのばらつきが小さいことが一因であると考える。またFRP-Dark-PLATEはアルミニウム箔が表面に付着したためそれを除去する作業が追加で生じたこと、元々GFRP板すべてが片側解放面のため凹凸が存在すること、さらに積層はすべて手作業であることなどが要因として分散分析の結果に影響を与えた可能性がある。特に積層が手作業のハンドレイアップであることを考慮すれば、今回の厚み変動は許容すべき値である。当社の過去の技術資料4)において、ハンドレイアップで作られたGFRPの厚みはレンジで3.0mm(±1.5mm)を想定すべきことを技術的に示しており、今回の結果で示されたレンジで最大1.13mm程度の数値変動は不可避なものであったと判断する。

また、すべての試験片のSUS板と接触していた成型面を定盤に接触させて設置し、定盤とGFRP成型面のクリアランスをシックネスゲージ(シックネスゲージW2869B(Gtbl))で確認した結果、脱型時に層間剥離が生じたFRP-Natural-PLATEを除き、どちらも0.15mmであることが分かった。

厚みに関する以上の結果を踏まえ、前述の当該厚みばらつきと、成型面を基準とした接触面変形に関するそれぞれの同等性から、硬化収縮に伴う変形はどれも同程度であり、UV照射による急激な硬化反応による顕著な当該収縮は認められなかったことが明らかとなった。

UV照射によるGFRPの材料特性の変化

層間せん断試験結果の比較から、FRP-UV-PLATEから切り出した試験片のせん断強度はFRP-Dark-PLATE、FRP-Natural-PLATEと比較して低下することが明らかとなった。層間せん断特性は、FRPにおいて強化繊維の補強強化効果が出にくい荷重モードでの評価となる。すなわち、マトリックス樹脂の特性がより顕著に出やすい。UV照射による硬化促進効果を確認したが、架橋密度の過度な向上や既述のベンジル生成等の副反応といった、マトリックス樹脂の機械、物理特性を低下させる恐れのある事象が生じており、それが層間せん断強度特性低下につながったと考えられる。最も高い層間せん断強度を示したFRP-Dark-PLATEは、硬化時間が他の2条件と比べて長かったことが当該推測の妥当性を支持している可能性がある。本項では層間せん断強度以外の観点から、UV照射による材料特性の変化を議論する。

最初に剛性について議論する。下図はFRP-UV-PLATE、FRP-Dark-PLATE、FRP-Natural-PLATEの応力/変位線図に、FRP-UV-PLATEの主たる試験片が示した勾配を示す赤の破線を追記したものである。すべての赤の破線は同じ勾配である。これを見ると、試験片ごとのばらつきがあるもののFRP-Dark-PLATE、およびFRP-Natural-PLATEで当該破線よりも勾配が高い傾向にあることがわかる。ショートビーム法による層間せん断試験では弾性率は計測できないが、この勾配を見掛けの弾性率とした場合、FRP-UV-PLATEのGFRPの弾性率は他のものよりも低い傾向にあると考えられる。UV照射による硬化促進は架橋密度の向上につながり、それが弾性率の向上につながると推定されたが、本結果は逆の事実を示したと解釈できる。一方で、通常の材料力学試験では応力/ひずみ線図中の低ひずみ領域における応力勾配で弾性率を評価する。ショートビーム法ではひずみは計測できないが、変位がそれに相関を有するパラメータと仮定すれば、低変位領域ではGFRPの硬化条件による顕著な差は認められず同等と考えるのが妥当である。より高変位領域で応力勾配に差がでた理由として、FRP-UV-PLATEでは架橋密度が高くなりすぎたためにマトリックス樹脂がより脆性かつ高弾性となり、さらに当該反応に伴う硬化収縮由来の残留応力の発生により、層間せん断という強化繊維が荷重を担いにくいモードにおいて低変位領域でのマトリックス樹脂の損傷が蓄積した結果、変位増加に伴う剛性低下が他の硬化条件より進行した可能性がある。

次に層間せん断応力の算出に用いた最大応力を示した際の変位を比較する。FRP-UV-PLATE、FRP-Dark-PLATE、FRP-Natural-PLATEについて、最大応力値を示した際の変位を確認の上、平均値をプロットしたグラフを下図に示す。データラベルは各試験片で最大応力値を示した際の変位の平均値を、エラーバーは標準偏差を示している。これをみるとFRP-UV-PLATEとFRP-Natural-PLATEには差はほとんど認めらなかったことがわかる。よってUV照射と自然光暴露という硬化条件の違いは、最大層間せん断応力を示すに至る許容変形量に影響を与えないと考えられる。これに対しFRP-Dark-PLATEは同許容変形量が他条件と比べて高かった。この理由は、硬化初期段階でラジカル反応を遅くすることで架橋点間距離が延び、高分子の粘弾性のうち粘性特性が高まったことが要因と考えられる。

層間せん断試験後の試験片の側面画像から破壊モードを考察した。代表的な側面画像を下図に示す。せん断破壊を示唆する部分を矢印で示した。FRP-Dark-PLATE-01は試験片側面に層間の剥離が明確に見えており、せん断モード破壊発生を確認できる。FRP-Natural-PLATE-02は試験片中心付近にせん断破壊による白色化が認められるものの、主たる破壊は底面部の引張モードである。多くの試験片が同様の破壊形態を示した。これは破壊後の試験片に荷重をかけすぎたのが原因である。試験中の破壊進展の詳細観察ができていなかったため推測の域は出ていないが、多くの試験片でFRP-Natural-PLATE-02と同様に引張モードの破壊形態を示した一方、どれもせん断破壊を示唆する損傷が認められたことから破壊モードに顕著な違いは無く、本報の主目的である硬化条件の違いによる材料特性の相対比較には問題ないと判断した。

まとめ

熱硬化を想定した不飽和ポリエステルと過酸化物系硬化剤は、どちらもUV-visのスペクトルから300nm以下で強い吸収を示した。この結果を支持する形で、UV照射環境下では当該樹脂をマトリックスとしたGFRPは短時間で硬化することを確認した。UV照射で硬化させたGFRPは暗室や自然光暴露で硬化させたGFRPよりも硬度がやや高く、またばらつきが小さい傾向を示し、急速な硬化反応で懸念された硬化収縮も他水準のものと比較して顕著な差異は認められなかった。ただしUV照射したGFRPは他の環境下で硬化させたGFRPと比べ褐色を呈した。これは光酸化反応とラジカル発生、そして停止反応によって生じる副生成物が原因であると考えられる。この色の違いがGFRPの特性に与える影響について定性的曲げ試験では確認できなかったが、層間せん断強度は低下することが明らかとなった。

以上の通り、UV照射条件下で硬化したGFRPの機械特性低下が認められたものの、材料積層枚数や光源との距離といった状況に応じた照射時間の調整により、本低下事象を抑制できる可能性がある。さらにUV照射は硬化反応促進という工程上の強みにつながり、また破壊までの最大変形量には顕著な影響を与えなかったことから、材料特性変化と工期短縮のバランスを考慮しながら本手法を適宜取り入れていく予定である。同様に硬化初期段階は光が無い状態で反応を遅らせることによる機械特性と靭性の向上は、GFRP構造物の長寿命化への取り組みとして研究を継続したい。

参照文献

1) JOHN McMURRY, 有機化学(上)第3版, 東京化学同人, 1994

2) S. L. Khursan et al, Bond Dissociation Energies of Organic Peroxide Compounds, Russian Journal of Physical Chemistry , 2001, 75, 5, pp. 724-732

3) 高分子材料の光、酸化、熱劣化評価 ~UV-Py-GC/MS~, 株式会社住化分析センターhttps://www.scas.co.jp/technical-informations/technical-news/pdf/tn349.pdf(2026/2/16参照)

4) 原形型製作方法の違いがGFRP成形体の寸法精度に与える影響(ENG-REPORT-010), 株式会社FRPカジ, https://rd.frpkaji.co.jp/eng_report_010/(2026/2/16参照)

以上