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「角R加工に用いる治具の形状検査結果」技術資料_ENG-REPORT-017

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背景

FRP(Fiber Reinforced Plastics : 繊維強化プラスチック)は比強度、比剛性に優れる強化繊維とマトリックス樹脂を組み合わせた複合材料である。さらに様々な形状に追従できる易成形性から、複雑な3D形状への成形も多く行われている。その際、応力集中回避等の観点から角部の加工が求められることがあるが、複雑な形状故にNC加工等が困難な場合が多く、手加工が基本となる。既報1)にて実際にFRP角部に手加工を実施したが輪郭度は1.8を上回る等、加工精度に課題が残った。本課題に対し、2Rと5Rを設計値とした検査治具を製作の上、本治具で形状を確認しながらFRPの角部の追加工をすることとした。

目的

新規に製作した角R検査治具について形状検査を実施し、公差を満たすか否かの判断を行う。また、本治具を用いた際のFRPの角部加工における狙い値を決定する。

結論

形状検査の結果、非直線形状、幾何寸法を中心に複数の検査位置で公差を満たしていないことが明らかとなった。角Rの検査領域2R、5Rの形状について、それぞれ2.03R、5.05Rであることが判明した。

概要

製作した角R検査治具の形状図面の抜粋を下図に示す。実際にFRP成形体の角部加工を行いながら、狙いの角Rである2R、5Rになっているか否かを確認できる形状とした。この治具は検査基準となるため、詳細の形状検査を行った。その結果R部はそれぞれ2.03R、5.05Rであることが明らかとなった。本数値を狙い値として、今後FRP成形体の加工を実施する。

角R治具

図 角R検査治具の図面(抜粋)

また、形状検査については従来法である接触式の形状検査に加え、ブルーレーザを用いた非接触式で実施した。これらの結果を比較したところ、両者で差異が生じており、非直線形状や幾何寸法でその違いが顕著になることが明らかとなった。

評価準備と評価方法

角R検査治具の製作

製作した治具の図面を下図に示す。角部の寸法検査を、加工現場で行えることを目指した設計とした。設計、モデリング並びに図面作成は自社にて行い、加工は外部企業にて実施した。

角R治具図面

図 角R検査治具の図面

接触式による角R検査治具の形状検査

一般的な2D寸法はデジタルノギス スーパーキャリパ CD67-S20PS(ミツトヨ)、ハイトゲージ HD-60AX(ミツトヨ)を用いて計測した。角R部は凹部になるため、石膏で形状転写させたうえでデジタルCRノギス CR0508(東栄工業)を用いて計測した。

幾何寸法である直角度は、製品を定盤に固定の上、ハイトゲージにマイクロメーターPMU300-25MB(ミツトヨ)を取り付けて計測を行った。表面粗さは SJ-310(ミツトヨ)をハイトゲージに取り付けて計測した。一部の計測の様子を下図に示す。尚、すべての計測は22℃、50RH%で管理した自社の恒温恒湿室内で行った。

接触式形状検査

図 接触式による形状検査の様子(左上:角R 右上:表面粗さ 下:直角度)

非接触式による角R検査治具の形状検査

計測はBlu Laser Line Probe SD/ Quantum E S 2.5m 7-Axis(FARO)を用い、ブルーレーザを照射することにより実施した。被検査体はブルーレーザの反射効率を高めるため、計測前にAgスプレーを表面に噴霧した。尚、ばらつきを考慮し3回計測した平均値を形状検査結果とした。すべての計測は22℃、50RH%で管理した自社の恒温恒湿室内で行った。スキャニングによって取得したstlデータとモデルとの照合計算にはPolyworksを用いた。

3次元測定器非接触検査

図 三次元形状測定機を用いた非接触形状検査の様子

結果

R検査治具の製作

製作した角R検査治具の外観写真を下図に示す。治具の表面に目立った傷等の外観異常は確認されなかった。

角R治具外観

図 角R検査治具の外観

接触式による形状検査

結果の一覧を下図に示す。結果、角R、凸部高さ等について公差を満たしていないことが明らかとなった。

接触式による形状検査結果

図 角R検査治具の接触式による形状検査結果

非接触式による形状検査

結果の一覧を下図に示す。表面粗さは使用した計測機器では測定できないため測定不可とした。接触式での検査結果同様、角R、凸部高さ等について公差を満たしていないことが明らかとなった。また、非接触と接触という計測手法の違いにより、数値に差異が生じていることが明らかとなった。

非接触式による形状検査結果

図 角R検査治具の非接触式による形状検査結果

考察

角R検査治具による検査狙い値について

検査治具で最も重要なのは、その検査結果の真値ともいえる狙い値がどこにあるかである。本報において、角R検査治具のR部について接触式と非接触式で検査を行った。詳細は後述するが、非接触式はスプレー噴霧、スキャニング、モデルの照合といった各工程で誤差が生じている可能性があり、精度には難があることが明らかとなった。そのため、接触式の形状検査によって得られた結果を真値として採用することが妥当であると判断する。

表 角R検査治具のR部の狙い値と計測値

R部の狙い値と計測値

以上の事から、本角R検査治具によって評価できるR値は上表で示す値である。今後は当該治具を用いて既報1)で作成したFRP成形体の角Rを追加工し、上表で示した数値に手加工でどこまで近づけるか否かについて検証を行う。

非接触形状検査の精度

非接触形状検査は複雑形状を計測できる等、複雑な3D形状体が最終製品となるFRP成形体の検査手法として優れている。しかしながら、本検査においてはブルーレーザを用いたスキャニングによって点群データを取得し、それを形状モデルと合致するといった誤差を発生させる工程が存在するという課題もある。また、FRPに限らず、光沢を有するもののスキャニングを不得意とするため検査前の表面処理が不可欠である。複数の手法を試した結果、Agスプレーが最も安定した形状検査結果を示したことから当社では本手法を検査前の表面処理方法として採用している。そして、本表面処理の形状検査工程への安定性寄与と、当該処理後の形状検査結果がどの程度のばらつきを有するのかを検証するため、角R検査治具の非接触による検査を表面処理無し、並びにAgスプレーを噴霧した後の形状検査を3回(n=3)実施した。Agスプレー噴霧は形状検査ごとに行った。

Agスプレーによる表面処理の影響を評価するため抜粋したR値計測結果について、縦軸に形状検査結果、横軸に検査対象を記した比較グラフを下図に示す。グラフ中の黒の横線は設計値である。5Rは表面処理有無による顕著な差異が認められなかった一方、2Rの形状検査結果においては同工程有無で顕著な差異が認められた。本原因としては表面処理を行わないとレーザーの反射に問題が生じ、スキャンによって得られる点群データが不十分になる、またその結果としてモデル照合計算に誤差が生じたことが考えられる。この影響は微小寸法程大きい可能性があり、それが5Rに比べ2Rの形状検査で差異が増大した一因と推測される。表面処理後は2Rでも計測値が安定し、接触式での計測値との差異が縮小することから、非接触式の形状検査工程の安定化にはAgスプレー等の表面処理が不可欠と考える。

非接触形状検査における表面処理

図 非接触形状検査における表面処理有無の影響(左:2R 右:5R)

また、非接触による形状検査結果の再現性について、角R並びに2D寸法についてCV値(変動係数)にて比較を行った。グラフ中の縦軸がCV値、横軸が測定位置である。評価対象は、Agスプレーによる表面処理を行った後に形状検査したn=3のデータである。一般的な2D寸法のCV値の多くは0.2%以下であり、最大値でも1%を下回っていることから形状検査結果の再現性は高いと考える。その一方で角Rの形状検査結果に関するCV値は2%前後と2D寸法と比較して大きい。当然ながらこれらのCV値をより低くする取り組みは必要であるが、検査工程における曲線形状測定結果の変動として顕著な問題は無いと考える。

非接触による形状検査結果のCV値

図 2D寸法の非接触による形状検査結果のCV値

また、幾何寸法について標準偏差(σ)で比較を行った結果を下図に示す。縦軸は標準偏差、横軸は測定位置である。測定位置の採番は上図と同様である。数値としては0.015から0.02程度を示しており、今回の図面要求公差に対しての形状検査精度としては不十分であることが明らかとなった。正規分布を仮定した場合、非接触による幾何寸法公差(直角度0.005)の設定において計測誤差の1%未満(σ=2.32)である0.05程度を考慮する必要がある。よって、非接触による安定した幾何寸法測定には幾何公差が小数点第一位までが妥当であると考えられる。

形状検査結果の標準偏差

図 幾何寸法の非接触による形状検査結果の標準偏差

接触式と非接触式測定の比較

角R検査治具の形状検査において、接触式での形状検査と非接触の形状検査について比較を行った。

角R部について、接触式で形状検査した結果を赤、Agスプレーによる表面処理後、非接触式で形状検査したもの(n=3)を青のグラフで示している。縦軸が形状検査結果、横軸が計測対象、グラフタイトルは測定位置の番号を示している。黒の直線が設計値、破線が上下公差である。接触式と非接触式で設計値に対して最大10%程度の差異が生じていることがわかる。また非接触式で得られる結果の方が大きめの数値となる傾向がみられた。

接触式/非接触式の形状検査結果比較

図 接触式/非接触式の形状検査結果比較(角R部)

2D寸法について角Rと同様の比較結果を下図に示す。グラフの見方は角Rの際と同じである。非接触式での形状検査結果にバラツキがあるものの、接触式と非接触式に差異が生じるという同様の傾向が認められた。しかしながら、接触式/非接触式間の差異は設計値に対して最大で1.6%であり、非直線形状であった角Rよりも大幅に差異が抑制されていることが明らかとなった。2D寸法については、接触式と非接触式で顕著な差が生じにくいといえる。

接触式/非接触式の形状検査結果比較(2D寸法)

図 接触式/非接触式の形状検査結果比較(2D寸法)

幾何寸法についても同様の比較グラフを下図に示す。接触式では公差範囲として判断された直角度だが、非接触式では数値が大幅に大きくなり、またばらつきも認められた。

接触式/非接触式の形状検査比較(幾何寸法/直角度)

図 接触式/非接触式の形状検査比較(幾何寸法/直角度)

非接触式と接触式による同一被検査体である角R検査治具に対して形状検査を行った結果、両者には差異があり、特に幾何寸法において顕著な違いが認められた。この違いの原因は既述の通り表面処理、スキャニング、モデル照合計算等の各工程の誤差が蓄積されたものと推測される。その一方で2D寸法は高精度の接触式と非接触式の形状検査結果で顕著な違いは認められなかったことも重要な事実と考えられる。

接触式での形状検査が困難な複雑な3D形状等については、幾何寸法を中心に非接触式の形状検査手法は有効であり、また俯瞰的に形状を捉えることができるという強みがある。可能であれば形状検査は接触式を基本にし、形状検査が困難な領域に対しては非接触式の形状検査手法を適用するという柔軟性が必要である。

まとめ

FRP成形体の角R部の手加工による加工精度向上を目的に製作した角R検査治具について、形状検査を実施した。その結果、治具で2R、5Rとして設計した寸法は2.03R、5.05Rであることが明らかとなった。本数値を狙い値として、今後FRP成形体のR加工を手加工で実施することで加工精度をどこまで高められるかの技術評価を実施予定である。

さらに本形状検査は接触式と非接触式の両方について行い、それぞれの差異やばらつき、そして非接触式で形状検査を行った場合に必要な公差についても考察した。本評価で得られた知見を、自社内での今後の検査業務改善に活用していきたい。

 

 

参照文献

1) 株式会社FRPカジ_技術資料_ENG-REPORT-013、「手加工によるFRPのR加工後の外観と精度評価」